尼崎簡易裁判所 事件番号不詳 判決
主文
被告人山川りさを罰金五千円に、
同坂田喜美子を罰金弐千円に各処する。
右罰金を完納することが出来ないときは金弐百円を壱日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。
理由
罪となるべき事実
第一、被告人山川りさは昭和二十八年十一月二十四日頃同被告人肩書住居の旅館営業所内第五号室において雇人である相被告人坂田喜美子が米国軍人ピタツク・ウオルターエから金千五百円貰う約束で売春するためその場所を提供し
第二、被告人坂田喜美子は前記同日頃前記同場所において不特定の相手方である米国軍人ピタツク・ウオルターエから報酬として金千五百円貰う契約の下に同人と性交し以て売春し
たものである。
証拠の標目(省略)
法令の適用
法律に照すと被告上山川りさの判示第一の所為は昭和二十七年尼崎市条例四号売春等取締条例第八条第一項、同条例第二条罰金等臨時措置法第二条に、被告人坂田喜美子の判示第二の所為は前記同条例第二条第三条第一項罰金等臨時措置法第二条に夫々当るので孰れも所定刑中罰金刑を選択し、所定罰金額の範囲内で被告人山川りさを罰金五千円に同坂田喜美子を罰金弐千円に各処する。右罰金を完納することができないときは刑法第十八条により金弐百円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。
特別弁護人中林英夫は本件は「前示尼崎市売春等取締条例第二条第三条の規定は憲法第十四条に牴触するから該条例は憲法違反として無効である」と主張するのでこれが判断するに、先ず前示条例第二条には「この条例で売春とは報酬を受け、若しくは受ける約束で不特定の相手方と性交又は性交の類似行為をすることをいう」とあつて、その定義を示し第三条第一項には「売春した者は五千円以下の罰金又は拘留に処する」と、同条第二項には「常習として売春した者は三月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する」とあつて売春した者に対する罰則が規定されているのである、なお同条例第八条第一項には「売春のため場所を提供した者は、五千円以下の罰金又は拘留に処する」同条第二項には「常習として又は利益を受け、若しくは受ける約束で前項の行為をした者は六月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する」と規定され、売春のため場所を提出した者に対する罰則が規定されているのである。
抑々売春行為を取締るということは、善良の風俗を維持し、社会秩序の健全な発達を図ることを目的とすることは言を俟たないところである。
而して前示尼崎市売春等取締条例第一条にはその取締の目的を明示しているのは至極当然のことである。
特別弁護人中林英夫の強調するところは要は前示売春等取締条例第二条第三条は孰れも売春した者を処罰の対象としその相手方をその処罰の対象としていないのは憲法第十四条にいわゆる国民平等の原則に反するというのである。
おもうに憲法第十四条が法の下における国民平等の原則を宣明し、すべて国民が人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は、社会関係上差別的取扱を受けない旨を規定したのは、人格の価値がすべての人間について平等であり、従つて人種、宗教、男女の性、職業、社会的身分等の差異にもとずいて、あるいは特権を有し、あるいは特別に不利益な待遇を与えられてはならぬという大原則を示したものに外ならない。なお最高裁判所の判例の示すところによると「憲法第十四条第一項の解釈よりすれば同条項が国民を政治的、経済的又は社会的関係において原則として平等に取り扱うべきことを規定したのは、基本的権利義務に関し国民の地位を主体の立場から観念したものであり、国民がその関係する各個の法律関係においてそれぞれの対象の差に従ひ異る取扱を受けることまでを禁止する趣旨を包含するものではないのである」と判示している。(最高裁判例集昭和二五年第四巻第十号二〇四〇頁参照)叙上最高裁判所の判例の示す如く本件について言えば売春した者のみを処罰の対象としたのはその者等が関係する各個の法律関係においてそれぞれの対象の差に従ひ異る取扱を受ける即ち売春した女性(社会通念上一部例外を除き殆んどが女性)のみを処罰の対象とすることまでを禁止する趣旨でないと解するから前示尼崎市売春等取締条例は憲法第十四条に反すとは言えない、従つて右特別弁護人の主張は採用し難い。
よつて主文のとおり判決する。(昭和二九年五月二九日尼崎簡易裁判所)